王さまの弦はヴィオラ弦(前編)

むかしむかし、ヴァイオリン王国とヴィオラ王国があった。

ヴァイオリン王国とヴィオラ王国は互いに憎みあっており、戦争を繰り返していたが、勝つのはいつもヴァイオリン王国であった。

ヴィオラ王国の王さまは嘆いた。

「なぜ我が王国はヴァイオリン王国に勝てないのだ...」

すかさず家来が答えた。

「次は必ず勝てますとも。あと2ヶ月ほどで新歓シーズンですから、どうかそこまでお待ちくださいませ。必ずや新戦力を獲得して見せます!」

王さまは言った。

「去年もそなたから同じことを聞いた。そなたが何を言おうと、人気のあるヴァイオリンにヴィオラより多くの新戦力が集まるのは明白だろう?」

家来は焦った様子で答えた。

「め、めっそうもないことを! ヴィオラ軍の団結力はヴァイオリン軍と比べて月とすっぽんであります! 兵隊の数は少なくとも団結力にかけては...」

王さまが家来の言葉をさえぎるように言った。

「なーにが団結力だ。ヴィオラ軍の兵器はヴァイオリン軍の兵器と比べて機動性が低いのだ。我々が円陣を組んで『オー!』ってやってる間に攻めつぶされてしまうわい」

家来は反論した。

「た、た、確かにヴィオラ軍の兵器は機動性に劣りますが、か、か、か、火力というか、音量にッ関してはヴァイオリン軍の兵器には負けません!」

王さまの表情は見る見るうちに変わっていった。

危険を感じた家来は叫んだ。

「王さまはお疲れであーーーーる。王さまはお休みの時間であーーーーる。みなのもの、すぐに寝室の準備をせよぉーーーー!」

こうして王さまは寝室に連行され、家来は処刑を逃れた。

一方ヴァイオリン王国では毎晩のようにパーティーが開かれていた。

パーティーもたけなわ、ヴァイオリン王国の家来が王さまに言った。

「王さま。もうそろそろ新歓期ですぞ。どういたしましょうか?」

王さまは言った。

「そちに任す。よきにはからえ。」

家来は言った。

「承知しました。王さまの知名度のおかげで新規獲得には不自由しません。今年もよい兵隊が獲得できるでしょう。」

「そうかそうか。はっはっはっ」

王さまはご機嫌だ。

再び家来が言った。

「そろそろヴィオラ軍が攻めてきそうですが、何かやるべきことはありますか?」

王さまは答えた。

「特にやることなどないだろう。今年も我がヴァイオリン軍が勝つに決まっておる。とりあえず早めに1stと2ndを分けておけ。」

「承知しました。王さまおかげで我がヴァイオリン軍は無敵であります!」

「そうかそうか」

王さまはさらにご機嫌になった。

「わしは今から弦を替えに行く。自分でできるゆえ、そちは来なくてよい。しばらくここで楽しんでいてよいぞ。」

王さまは千鳥足で部屋に戻っていった。

王さまが特別ご機嫌なのには理由があった。

今日Amazonで注文したオリーブというガット弦が到着したのである。

王さまはガット弦を張るのが初めてなので、胸の高鳴りが止まらない。

早く張り替えてオリーブの音色をたしなみたかった。

正直、新歓だとかヴィオラ王国との戦争など、どうでもよかった。

さらに言えば今日のパーティー自体面倒であったが、酒好きの家来のためには仕方がなかった。

たちの悪いことに、家来は酒好きなだけでなく酒を飲ませるのもうまい。

弦のオリーブが届いていることにかこつけて、

「イタリア産の高級オリーブをどうぞ」

とかうまいことつまみを食わせるのである。

これではワインを飲まざるを得ない。

しかも不運なのか幸運なのか、今日は財務大臣の懐が緩く、一本100万円のワインを開けることができた。

そんなこんなで、ついついワインを3本ほど開けてしまい、自分が揺れているのか地球が揺れているのかも判断できないくらい酔ってしまっていた。

どちらにせよ、とても気分が良い。

お城の長い廊下ももう少しで終わりである。

あと100メートルくらい歩けば自分の部屋だ。

そこには念願のオリーブが待っている。

そう思うと、ただでさえ24金で装飾されている部屋のドアが一層輝いて見えた。

しだいにその輝きは強まり、世界は黄金色に輝いていった。

同時に記憶も遠のいていった。

ふと目が覚めると自分の部屋のベッドの上に横たわっていた。

周りを見回すと見知らぬ男たちに取り囲まれていた。

「お、お前ら何者だ!」

「ふっふっふ。我らはヴィオラ王国の使者だ」

「なにっ! く、曲者だ! であえーであえー!」

使者の一人が言った。

「無駄だよ、ヴァイオリンの王さまよ。ここは防音室だ。」

別の使者がおもむろにトランペットをヴァイオリン王の耳元に近づけた。

「これから我々の言うことに従ってもらう。抵抗した場合はこのトランペットで真ん中のGをぶっぱなす。」

王さまは焦ったように答えた。

「わ、わかった。君たちの言うことは聴くから、鼓膜だけは助けてくれ! 私はオリーブの音色を聴かないうちには死ねない。」

使者は言った。

「わかりの良いお方だ。それでは要求を言おう。明日からヴァイオリン王国の国王はこのお方がやる。」

突如、部屋に見覚えのある男が入ってきた。

ヴィオラ王国の王さまであった。

「久しぶりだな。ストラディバリバリ。」

ストラディバリバリとはヴァイオリン国王の名である。

ストラディバリバリは唖然とした。

「お前は、、、ガスパロダサ男......」

続く。

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